肝切除術
肝がんの中で、がんの広がりがある程度にとどまっている場合に行う治療です。がん結節を完全に摘出するとともに周辺に散らばった微小な転移巣を含めて切除するため高い根治性が期待できる治療法です。
肝臓は流入する血管の分岐に応じた領域が有り、腫瘍の存在部位と肝機能から、切除する領域ならびに範囲が決定いたします。肝細胞がんではこの領域に沿った切除(解剖学的切除)が基本で、転移性肝がんでは必ずしも解剖学的切除にはこだわりません。
根治的な切除が可能な比較的早期の肝細胞がんでも、約半年で主腫瘍周囲に顕微鏡でしか確認できない微小な転移巣を認めます。肝切除はこれらを含めた摘出を行うのでがんの根治性が高くなります。
しかしながら、肝切除はがんが肝臓内に広く広がっている場合や肺や骨、脳などに転移がある場合は第一選択としての適応はありません。また、肝切除は肝臓や全身に対する侵襲が大きく、肝臓の機能がある程度良好に保たれていないとできません。心臓や肺の機能、その他の臓器の機能もしっかりとしていないとできません。このような条件に合った場合に肝切除が行われます。また、最近では肝動注化学療法や薬物療法の効果が向上し、進行したがんにおいて、これらの治療が奏効した場合には、より高い根治性を得るために肝切除を追加することもあります。肝臓に近い胆管にできたがん(肝門部領域胆管がん)や胆のうがんにおいても胆のう、胆管の切除とともに肝臓の切除を行います。
肝臓は再生機能が旺盛な臓器です。障害のない肝臓は、7割程度切除することが可能ですが、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などで慢性の肝障害がある場合は、切除許容量はより少なくなります。がんの広がりと肝障害程度に応じた肝切除許容量のバランスを考慮して術式が決定されます。肝切除後の肝機能は1〜2週間で正常に復し、肝臓の大きさも1〜3ヶ月でほぼ術前と同じくらいに戻ります。
肝拡大右葉+尾状葉切除の例
A:肝切除前のCT画像で、66.8%の肝臓を切除し、残る肝臓(残肝)の容量は564ml(点線)と評価されました。
B:肝切除後10日目。残肝の容量は1100mlで、術前の1.95倍に再生、増大しています。
C:肝切除後30日目。残肝の容量は1345mlで、術前の2.38倍に再生、増大しました。
広範囲の切除が必要である場合には、肝切除に先立ち切除予定領域に流れる肝内門脈枝のみをアルコールで選択的に塞栓する手術を行い(門脈塞栓術)、切除予定領域の肝臓を萎縮させ、残す肝臓の再生を促し、2~3週間後に広範囲な切除を安全に行います。
近年、腹腔鏡での肝切除も可能となっており、小さな傷で手術できるため、術後の合併症や疼痛などの患者さんの負担が大変軽くなっております。ただし、腹腔鏡の切除は広範囲にわたる切除、複雑な手技を要する切除あるいは上腹部の開腹手術の既往がある方には適応がありません。