がん治療に対する当院の取り組み
はじめに
2008年5月の新病院開院とともに、がん治療センターを開設した。このがん治療センターの目的は、IMRT(強度変調放射線治療)をはじめとする高精度放射線治療の導入、そして化学療法と放射線治療の適応を複数の診療科を介することなく判断できる体制の確立、化学療法と温熱療法・高気圧酸素治療を併用する集学的治療の実践にあった。
開設から4年以上を経過し、そのいずれについても高いレベルで実現されており、その内容について紹介する。
化学療法と放射線治療
ほとんどの施設では、がんの治療方針は診断した診療科で決定され、手術、化学療法、放射線治療といった治療方針がガイドラインにそって決定され、治療方針が放射線治療になった場合、放射線治療医に紹介される。
しかし、当院では多くの場合、化学療法も放射線治療医が決定することが多い。頭頸部癌、食道癌、肺癌、膵癌などの根治的放射線治療においては、よい放射線治療を施行するだけでなく、同時並行して行う化学療法の選択が治癒できるかどうかを決める重要な選択肢である。
当院では、こういった根治治療における主治医をがん治療センターの放射線治療医が担当している。これによるメリットは、治療計画が迅速に行えること、化学療法と放射線治療の両者を一括して管理できることによる化学放射線治療における有害事象を最小限に抑えることができることがあげられる。
私が大学病院で最も苦労したことは、化学療法を予定する医者と、放射線治療を行う医者が異なるため、そのギャップに患者自身が苦しむことであった。化学療法と放射線治療の最高のコンビネーションが得られる薬剤量と放射線線量の調整がうまくいかなければ、効果が得られないだけでなく、有害事象が強く出たり、場合によっては、治療完遂が不可能になることすらまれではなかった。
そういう反省から、当院では、がん治療センターの医師が化学療法と放射線治療を一括して管理するシステムを導入するようになっている。放射線治療医が多くの入院患者をもつことで、多忙になる点を除けば、理想とする化学放射線治療が実践できていると痛感している。
さらに、当院にはない耳鼻咽喉科、婦人科の領域の腫瘍でも、大学病院レベルと遜色のない化学療法、放射線治療を提供できている。
集学的治療
戸畑共立病院がん治療センターの前身として、戸畑診療所、とばたクリニックにおける温熱化学療法・高気圧酸素治療が2003年から2007年度まで施行されていた。クリニックでありながら、19床の病棟を持ち、化学療法室を完備、温熱療法・高気圧酸素治療の装置をそれぞれ2台保有するがん治療の小さなセンターであった。
ここでの経験が、我々医師だけでなく、看護師、放射線技師、臨床工学技士のスキルアップに役立ち、現在の戸畑共立病院がん治療センターの存在感が確立されたものと考えている。前述したようにがん治療センターの医師が統括してがん治療の治療方針を決定することで、化学療法も担当することが多くなり、これらの患者にもひろく温熱療法や高気圧酸素治療を併用している。
当院は、温熱療法、高気圧酸素治療をがん治療に併用している本邦でも有数の施設であり、当院の治療方針、治療成績が標準として認知されるまでになっている。表に当院での代表的ながんに対する集学的治療成績を示した。また、2012年に国際学会で発表した10演題のPDFも閲覧可能としている。
たとえば、非小細胞肺癌Ⅲ期の、化学放射線治療に温熱療法・高気圧酸素治療を併用した症例の5年生存率は36%であり、胸郭内病変だけのIV期の非小細胞肺癌の5年生存率も26%である。また、手術不能膵癌の化学放射線治療に温熱療法・高気圧酸素治療を併用した症例の2年生存率は42%である。標準的治療と比較して格段の良好な治療成績を示すことができるのも、化学療法だけでなく、温熱療法・高気圧酸素治療といった生物学的理論に裏付けされた併用療法を化学療法や化学放射線治療とともに行う集学的治療の力であろう。
さらに他院でこれ以上治療継続困難と告知された方たちの中にも、温熱療法・高気圧酸素治療を化学療法と併用したり、高度な技術に裏付けられた再照射を併用することで、治療成果が上がり、中には完治まで至った症例も経験している。
我々の行っている治療は、ガイドラインをベースにして、最高の放射線治療、最高の併用療法を駆使した最高の集学的治療であると自負している。患者一人一人を大切にし、週6日外来で、いつでも受診できる、そして、必要があればすぐに検査を行い、リスクを最小限にとどめていく、そういった私が追い求めてきた最高の治療を、がん治療センターのスタッフと共に日々追い求めている。
戸畑共立病院 副院長 がんセンター長
今田 肇