前立腺がんの治療法選択について
2016年 師走
前立腺癌の治療法には、①待機療法、②手術療法、③放射線治療と、大きく3つの方法があります。本年の英国報告(N Engl J Med 2016; 375:1415-1424)では、これら3つの群での長期(10年)生存率に差がないとされ、①の待機療法群では早期に根治療法を行う2群に比べて癌の浸潤・転移が多くみられるとしています(右下図)。②手術と③放射線治療では生存率は同等とされていますが、生存率が同じなら、患者にとっても本当に同じ治療なのでしょうか?
この有名な論文には、重要な追加論文(N Engl J Med 2016; 375:1425-1437)が同じ雑誌にあります。小生は非常に意味深い論文と思っておりますが、この3つの群の患者さんの治療後に起こる併発症や生活の質の変化を6年間にわたり調査されています。これによると、②手術後は直後から明らかに尿失禁や性機能低下がみられ、その後の経過で回復することは少なく、他の2群に比べ明らかに生活の質が落ちるとしております。③放射線治療(外照射)での排尿機能および性機能低下は一過性で、1年後には回復します。その後の経過は①待機療法群と同様な、年齢とともに起こる経年的変化を示すとされました。つまり、がん治療結果が同等としても、治療後の生活の質や生体機能は直後から大きく異なるとされています。
今回取り上げた論文には、現在日本で普及しているロボット支援手術や、当院で行っている強度変調放射線治療、密封小線源治療など、最新の治療法は含まれていません。これらの新しい治療法についての直接比較検討は現在まで十分実施されていませんが、それぞれの治療法の領域で改善していることが解っています。たとえば手術療法は従来の開腹手術よりもロボット支援手術のほうが、また放射線治療は従来の外照射療法(3D‐CRT)よりも強度変調放射線治療(IMRT)や密封小線源治療のほうが、各学会ですでに報告された治療成績が向上し、合併症が少ないことが認められています。ですから、これから治療をお受けになる患者様への治療法選択に関するアドバイスとしては、まず当該施設での治療成績と合併症について十分お聞きになって、最終的な治療選択の参考にすべきと思いますし、その施設で行っていない治療法でも遠慮なさらずご質問されてください。
還暦を迎えた男性が、がん治療のためとはいえ、一旦失った生体機能を回復することは、年齢的にもなかなか難しいと思います。この記事をお読みになった前立腺がんの患者様は、治療後に治これまでと変わらない生体機能を守った10年以上の人生を送るのと、直後から一定の生体機能を失った10年とその後の日常生活、について是非お考えください。わたくしたち戸畑共立病院がんセンターは、もちろんがん治療では治癒を目指し、下に示しました治療成績を今後もさらに向上させる努力をします。前立腺がん治療を受けても、これまでと変わらない生活を送っていただくために、高精度放射線治療を実施しておりますので、治療法選択の中には、NHKの報道にありましたように、強度変調放射線治療(トモセラピー)と密封小線源治療を必ず検討に加えてくださいますようお願いいたします。北九州でもこれらの治療が受けられます。
ご相談については当院は地域連携室を通じての予約制としております。午後に十分時間をとってご理解いただけるよう説明しておりますので、ご連絡くださいますよう、お願いします。
文章責任:泌尿器科 部長 山田 陽司
参考サイト:
https://www.nmp.co.jp/seed/forum/index.html