前立腺癌の根治には密封小腺源がもっとも効果が高い!
2015年 11月
1.限局性前立腺癌のリスク分類別の治療成績
前回ご紹介したGrimm先生のメタアナリーシス論文を再度ご紹介します。概略は、米国の70の治療施設で、5年以上、100例以上治療した施設の治療法別のPSA再発を比較検討しておられます。リスク群別の概要は以下の通りですが、これにニコニコマークの当院の密封小線源(低リスク群)、およびホルモン療法+密封小線源治療(中リスク群)、ホルモン療法+密封小線源+外照射療法(高リスク群)の治療成績も追加して掲載いたします。
1.低リスク群のPSA 10年非再発率は密封小腺源治療で90%以上であり、手術や外照射療法よりも有意に再発が少ない。
2.中リスク群は、ホルモン療法+密封小線源治療または密封小線源治療+外照射療法が非再発率85%以上であり、手術や外照射療法(75%)よりも優れていた。
3.高リスク群では10年非再発率が手術では40%未満であるのに対し、密封小線源+外照射療法+ホルモン治療は80%以上であった。
つまり、転移のない限局性前立腺癌の治療では、密封小線源治療を単独、もしくはホルモン療法や外照射療法併用して行なうことが、すべてのリスク群において前立腺癌の根治に有利であることが示されました。
いろいろな放射線治療がありますが、前立腺癌の場合には下図のように、密封小線源治療を組み合わせることにより、高い放射線照射が可能となることがわかっており、高リスク群における有効性を示す理由の1つとなります。
現在、日本でも密封小線源治療が実施できる施設が少ないことで、このことをご存じなくて治療法選択を迷われる患者さまが多いとお聞きしております。この記事をお読みになった方は、以下のサイトでも情報公開されておりますので、ご参照ください。
★日本の密封小線源治療に関係する情報:
日本メジフィジックス株式会社(線源メーカー):
https://www.nmp.co.jp/member/oncoseed/
腺友ネット(前立腺がん患者会):
https://pros-can.net/
★前立腺癌患者会の紹介:
腺友倶楽部:
https://pc-pc.org/category/news/activity
2.本邦での密封小線源治療と併用するホルモン療法について
密封小線源治療に関するホルモン療法の投与期間については、下記サイトで現在進行中の臨床研究が示されています。概略は、低リスク群では重量縮小目的での投与が主で、ホルモン療法は併用しなくてもよいとされています。中リスク群では、3か月間または1年間のホルモン療法の併用する試験が実施されています。高リスク群の外照射併用療法では、投与期間は約5か月間と5か月間+2年間の試験が実施中で、本邦における至摘投与期間は、近々決定されるものと思われます。
前立腺癌密封小線源永久挿入治療研究会:https://zenritusen-seed.kenkyuukai.jp/special/?id=6444
当院では、すでにかかりつけでホルモン療法をお受けになっている患者様でも、診断時より現在までの経過から治療実施可能かどうか判断しておりますので、すべてのリスク群の患者様でご相談ください。
3.当院の密封小腺源治療の成績
平成20年7月より平成27年10月までに、当院では前立腺癌に対する密封小腺源治療を333例に対して行いました。当院では、低リスク群は密封小線源単独療法、中リスク群では短期ホルモン療法併用または外照射併用、高リスク群はホルモン療法+外照射療法+密封小線源治療で治療を行っています。T3(被膜浸潤または精嚢腺浸潤)の患者様へも、MRIでの診断後に積極的に高リスク群と同様に併用療法で治療しています。
これまで、当院では333例、低リスク群 144例、中リスク群 144例、高リスク群 30例、T3(被膜または精嚢浸潤) 8例に対して密封小線源治療を組み合わせて実施しました(単独執刀医)。治療後の観察期間は中央値34か月の成績ですが、PSA再発は初期の1例のみで、ほかの症例では全例PSAは低値となっています。有害事象は、尿道または直腸からの出血を内服または内視鏡での止血を行ったのが11例(3.3%)、2週以上の尿閉4例(1.2%)でしたが、これらの患者様はいずれもその後の処置ないし内服治療で軽快しておられます。この有害事象は他施設と比べて少ない副作用と考えられました。当院の治療は、放射線治療医、放射線技師、看護部と十分連絡を取って実施していることが、有効性と副作用の少ないことが実現できていると思っております。
4.ホルモン治療期間の短縮について
低リスク群の患者様では、PSA監視療法の適応でもあることから、大きな前立腺以外では密封小線源治療前にホルモン療法は必要がないとされています。しかし、中リスク群や高リスク群では、PSA監視療法が進められない患者様もおられ、病気を進行させないためにも、診断後にホルモン療法の開始されることには重要な意味があります。しかし、本邦でのホルモン療法の至適投与期間は臨床研究の結果で示されることは説明しましたが、すでに放射線治療後にはホルモン療法を実施しない施設の報告では、外照射療法を併用すれば、高リスク群でも83%以上の非再発率が得られると報告されています。
当院では上記治療成績を踏まえて、今後はホルモン治療期間を短縮できないかと考えております。受診いただいた際に、治療待機期間から、リスク群に合わせてご説明いたします。
最後に、検診などのPSA高値で診断された前立腺癌の患者様は、排尿困難や頻尿などの臨床症状が少ない場合が多いと思います。前立腺癌の根治療法で、射精能を含めた男性機能を温存して前立腺癌を根治させることができるのは、手術療法(ロボットを含む)、放射線治療、ホルモン療法では、放射線治療のみにその可能性が残されています。ホルモン療法実施後の患者様でも治療できないか、検討して説明しますので、どうぞご予約して受診してください。