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前立腺癌術後断端に対する救済放射線治療

2020年 師走

残存するがん組織と闘うには

限局性前立腺癌の根治手術には、開腹手術、腹腔鏡手術、さらに最近ではロボット支援手術と、大きくわけ3つあります。いずれも本邦で保険適応として受けられる手術ですが、これらの手術後には尿失禁や性機能低下のほかに、切除断端に前立腺組織が一定の割合で残存することがわかっています。以前の発生頻度はNHK-ETV報道(2014年11月/図1)で紹介されていますが、最近のロボット支援手術では、この断端陽性率が従来の手術と比べ改善していると思われます。
一般的に、術後に前立腺組織またはがん組織の一部が体内に残ってしまった場合の治療法は、抗男性ホルモン療法または術後断端への放射線治療(救済放射線治療)となります。この場合に前立腺組織がほとんどない状態ですと、密封小線源治療やサイバーナイフ治療は実施できませんが、当院ではトモセラピー(TOMOTHERAPY)を用いた外照射療法が可能です。

放射線治療のメリット

前立腺癌治療では、最初から放射線治療を行った方が前立腺照射の位置合わせや周囲臓器の保護もし易いため、根治性も高まります。
根治照射は、従来の外照射35回では効果不十分ですが、強度変調放射線治療(IMRT)では38回の高度な治療が、安全に実施できます(この3回の違いが大きく治療効果に関係します)。
しかし、救済放射線治療(術後断端照射)の場合、①残存前立腺組織がどこにあるのかわかりづらい、②保護臓器である直腸が手術の影響で照射部位の膀胱-尿道吻合部に近くなる、などから、一般に33回の外照射療法が行われ、回数に制限がかかることが一般的です。

データから見る治療開始時期とホルモン療法の併用

2016年米国放射線治療学会の大規模調査では、前立腺癌Stage:IIまたはIIIの術後状態(手術時にリンパ節陰性)で、PSA < 2.0ng/mlの症例で救済放射線治療を実施した1108例について検討されております。これによると33回以上とそれ未満では明らかな治療効果に差があり、35回以上の照射群(>70Gy)が、ほかの群にくらべPSA再発が少ないようです(グラフ参照)。
救済放射線治療後にさらにPSA再発および遠隔転移となりやすい患者側因子としては、手術時の所見で①組織型GS≧8、②精嚢腺浸潤あり、③放射線開始前のPSA>1.0、とされています。
術後にPSAが上昇したら、PSA<1.0までの早期の段階で救済放射線治療を開始すべきです。
別の報告では、救済放射線治療実施時の短期間の抗男性ホルモン療法の効果について検討されています。33回の救済放射線治療時に3か月間の抗男性ホルモン療法を行いますと、5年間無増悪生存割合(治癒に近い)では、照射単独群62%に対し、ホルモン療法併用群80%と良好で、ホルモン療法に特有なHot-Flush(発汗やのぼせ感)があるが重篤ではないとしています。
つまり、短期間のホルモン療法併用は、治療後のがん制御の有用なツールであると思われます。
最後に、当院のがん治療センター放射線治療医は、症例によっては35回以上の断端照射を安全に実施しており、重篤な直腸炎の経験はありません。

治療後の再発を減らすために

しかしながら、術後断端陽性率が高いGS≧8のような高リスク群前立腺癌の患者様については、①あらかじめ術後の断端陽性率が高いことが予想されること、②術後救済放射線治療の成績が不良であること、がすでにわかっています。
よって、特に高リスク群の患者様は、当院で実施しているような外照射療法併用密封小線源治療(トリモダィティ)をお受けになったほうが、治療後の再発を少なくできると考えております。

術後断端への放射線治療(救済放射線治療)について

断端照射をご希望の患者様は、かかりつけ医の先生にこれまでの治療経過を記載した紹介状の作成をご依頼ください。
当院の地域連携室にご連絡いただき、診療時間のご予約後、担当医より十分な説明をいたします。

文責:泌尿器科 山田 陽司